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研究理念

 炭疽病菌は非常に種類が多く、様々な植物に感染被害をもたらしている植物病原糸状菌(カビ)です。その感染メカニズムを掌握し、植物が本来備える免疫系を十分に理解すれば、植物保護に大きく貢献できます。また、カビの感染戦略植物の防御戦略に基づく相互作用システムは学問としても知的好奇心をくすぐる魅力的な研究素材です。植物保護の観点に立ちながら学問を追求することで、新しい「糸状菌病防除技術の開発」と「自然界の真理の探究」を同時に行うことができると考えています。

炭疽病の

壊死斑を形成した

キュウリ本葉

炭疽病の

壊死斑を形成した

リンゴ果実(つがる)

炭疽病の

壊死斑を形成した

シロイヌナズナ本葉

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炭疽病の

壊死斑を形成した

ソメイヨシノ花弁

ソメイヨシノ+サクラ炭疽病菌.jpg

病原

Colletotrichum

fioriniae

(リンゴ炭疽病菌)

 植物に感染して炭疽病をおこすColletotrichum属の糸状菌(カビ) 

病原

Colletotrichum

orbiculare

(ウリ類炭疽病菌)

病原

Colletotrichum

higginsianum

(アブラナ科炭疽病菌)

病原

Colletotrichum

nymphaeae

(サクラ炭疽病菌)

 炭疽病菌に感染した植物は褐色から黒色の壊死斑を形成し、病徴が進展すると株全体が枯死することもあります。感染部位は葉、茎、花、果実など様々です。

 様々な植物から分離される炭疽病菌(Colletotrichum属菌) 

各植物から分離され固形培地上で生育する炭疽病菌のコロニー

炭疽病菌のコロニー(背景黒).jpg
インゲン.png
コマツナ.png
タマネギ.png
トマト.png
キュウリ.png
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 Colletotrichum属を構成する炭疽病菌の種は非常に多く、感染する植物も世界中で数百種確認されています。穀物、野菜、果樹、花卉などを問わず、多様な作物に被害を与えています。

 一般に、炭疽病菌と植物には相性があり、それぞれの炭疽病菌が感染できる植物(宿主)は限られています。例えば、ウリ類炭疽病菌はキュウリなどのウリ科作物に、アブラナ科炭疽病菌はコマツナやシロイヌナズナなどのアブラナ科植物に特異的に感染します。このような特性を宿主特異性と呼びます。一方で、宿主範囲の広い多犯性の炭疽病菌も存在します。

炭疽病菌感染過程模式図.jpg

 炭疽病菌は胞子により拡散し、植物上で発芽後、メラニン化した特殊な感染器官(付着器)を形成します。付着器内部には高い膨圧が発生し、植物のクチクラ層および細胞壁を貫通して植物内部に侵入します。感染初期は宿主細胞を殺さずに菌糸を伸展し、感染の後期になると宿主細胞を殺して死細胞から栄養を摂取します。感染過程を通じて病原性因子(エフェクター)を分泌し、宿主植物の免疫系を抑制しながら感染を進めます。

 炭疽病菌の宿主植物への感染過程と顕微鏡写真 

 遺伝子操作技術による蛍光タンパク質遺伝子の導入 

炭疽病菌の蛍光可視化.jpg

植物内に侵入した菌糸を蛍光可視化した様々な炭疽病菌

 炭疽病菌に蛍光タンパク質の遺伝子を導入すれば、感染植物に侵入している菌糸を可視化することが可能です。生命科学の分野では波長の異なる様々な蛍光タンパク質が研究に利用されています。

ウリ類炭疽病菌エフェクターの蛍光可視化.jpg

植物への感染過程でウリ類炭疽病菌の病原性因子(エフェクター)を可視化

Irieda et al., 2014 Plant Cell

感染戦略

 特定のタンパク質に蛍光タンパク質を融合して発現させると、そのタンパク質の機能する場所が局在パターンとして観察できます。例えば、植物免疫を抑制するために炭疽病菌が分泌するエフェクタータンパク質に赤色蛍光タンパク質mCherryを融合すると、植物への感染過程でどの領域にエフェクターが蓄積するのかモニターすることが可能です。この技術により、ウリ類炭疽病菌は複数の領域からエフェクターを宿主植物へ輸送していることが明らかになりました。この成果は炭疽病菌の植物感染戦略を考える上で大きな前進です。

 波長の異なる蛍光タンパク質を用いれば二色同時可視化も可能です。エフェクターをmCherryで、侵入菌糸を緑色蛍光タンパク質GFPで可視化すれば侵入菌糸の周囲に蓄積するエフェクターが同時に蛍光シグナルとして観察できます。

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Irieda et al., 2019 Proc. Natl. Acad. Sci. USA

 カビのエフェクターNIS1を介した植物免疫抑制の分子メカニズム 

感染戦略

 炭疽病菌が分泌したエフェクターは植物内の標的となる免疫因子を攻撃します。植物に病気を起こすカビが共通して保有するエフェクターNIS1は、植物免疫における病原体認識機構の中心キナーゼ(BAK1とBIK1)の機能を阻害することを突き止めました。エフェクターがカビの感染戦略の一翼をどのように担っているのか、その分子メカニズムの一例が明らかになりました。

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 表皮葉緑体は免疫因子を搭載して防御応答に関わる移動型の細胞小器官 

Irieda and Takano, 2021 Nat. Commun.

 病原糸状菌の侵入を防ぐためのバリアとして機能する植物の表皮細胞には、光合成にあまり寄与しない機能未知の小さな葉緑体(表皮葉緑体)が存在することが知られていました。しかし、何のために存在しているのか、その存在意義は謎に包まれていました。当研究室では、病原糸状菌の攻撃を受けた際に、表皮葉緑体が細胞内をダイナミックに表層側へと移動して防御応答に関与することを発見しました。表皮葉緑体には複数の免疫因子が特異的に集積し、病原糸状菌の侵入を阻止する抵抗性の強化に貢献していました。植物の表皮細胞に存在する小さな葉緑体の存在意義の一端が初めて明らかになりました。

防御戦略
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